半導体に使用する貴金属のコストを最小化する方法
貴金属は、その稀少性・偏在性により常に高額であると共に、世界経済や地域紛争等の影響で価格が大きく変動します。特に「金」は通貨としての側面が強く、金利情勢や地政学的リスク、主要国における中央銀行の動向に敏感な金属です。近年は世界情勢の不安定化やインフレ懸念の高まりにより、歴史的な高水準で価格が推移しており、その動向は常に注視されています。
一方、白金族金属(PGM:プラチナ、パラジウム、ロジウムなど)や銀は、自動車の排ガス浄化触媒や電子部品といった産業用途の比率が非常に高く、世界的な景気動向や特定産業の需要に強く影響を受けます。例えば、自動車産業の電動化(EV化)の進展は、触媒用途であるパラジウムやプラチナの需給バランスに大きな変化をもたらし始めています。このように、各貴金属はそれぞれ固有の市場変動要因を持つため、半導体メーカー等にとって貴金属材料の調達は、常に大きな価格変動リスクと隣り合わせにあります。
しかし、このような価格変動リスクを抱えながらも、貴金属は私たちの生活に決して欠かすことのできない材料です。化学的に安定し、一部を除き延伸性に富み、熱や電気を極めて通しやすいという優れた特性から、スマートフォンやPC、自動車、医療機器などに内蔵される半導体や電子部品の製造に広く用いられています。また、生活必需品である化学製品を製造するプロセスにおいても、化学反応を促進し製造効率を飛躍的に高める「触媒」として活躍しています。さらに、IoTやAIの進化、EVの普及によって高性能な半導体需要は拡大し続けており、それに伴い貴金属の重要性もますます高まっています。
そして、貴金属が持つもう一つの大きな特徴。それは「繰り返し使える金属」であるという点です。これは、後述する『コスト最小化戦略』において最も重要な要素となります。高価で稀少な材料だからこそ、そのリサイクルや再利用の仕組みを徹底することが、これからの企業競争力を高める最大の鍵となるのです。
半導体に使用される主な貴金属材料
半導体や電子部品の製造において、金、白金族金属(PGM)、銀といった貴金属が「重要な材料」として選ばれる理由は、その優れた性質にあります。
- 化学的安定性
酸化や腐食に対する耐性が極めて高いため、長期間にわたり高い信頼性が要求される車載用やインフラ関連の半導体に最適です。数十年単位での動作が求められる半導体において、接点や配線での劣化は許容されません。 - 導電性・熱伝導性
熱や電気を通しやすい(電気抵抗が極めて低い)性質は、半導体の高速動作や消費電力の低減に不可欠です。微細化が進む現代の半導体では、わずかな抵抗の上昇が性能に大きな影響を与えるため、貴金属が持つ高い導電性は代替困難な特性です。 - 加工性
一部の金属を除き延伸性に富み、非常に細い線(ワイヤ)や極薄の板への加工が可能なため、半導体の微細な構造に合わせて幅広く使用されています。
このような優れた特性から、貴金属は電気的に「薄く・細く、つなぐ金属」として、半導体の性能と信頼性を根底から支えています。
半導体製造工程は、ウエハに回路を形成する「前工程(ウエハ工程)」と、ウエハから切り出したチップをパッケージングする「後工程(組立・検査工程)」に大別されます。各工程における主要な用途は以下の通りです。
前工程(ウエハ工程)
前工程では、主に薄膜の形成や電極材料として貴金属が使用されます。
- 薄膜形成材料
先端半導体の微細な回路形成や、電気をコントロールするパワー半導体の裏面電極などに用いられます。
スパッタリングターゲット:物理気相成長(PVD)の一種であるスパッタリング法で使用される板状の加工材。高純度な金や白金族金属のターゲットを使用し、ウエハ上に極めて均一な薄膜を形成します。
CVDプリカーサ:化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)で使用される、揮発性の高い貴金属化合物(前駆体)です。 - めっき工程で使用する化合物
GaAs(ガリウムヒ素)などの化合物半導体ウエハを使用するパワーアンプや通信デバイスにおいて、電極形成のためのめっき工程で金やパラジウムなどの化合物が用いられます。
後工程(組立・検査工程)
後工程では、半導体チップと外部、あるいはチップ間の接続といった電気的な「つなぎ」の部分に貴金属が多用されます。
- パッケージ基板・リードフレームの電極
チップを搭載する基板やリードフレーム、および機器に組み込むためのプリント配線板等の電極には、高い信頼性を確保するためにめっき工程で金化合物(例:シアン化金カリウム)が使用されます。 - ダイボンド材
チップを基板に固定する接合材(ダイボンド材)。高熱伝導性を確保するため、銀粉と有機材を練り合わせた「銀ペースト」が主流として使われています。 - ボンディングワイヤ
チップの電極と基板等をつなぐ結線には、数十マイクロメートルレベルの極細線である「金」や「パラジウム被覆銅(PCC)」のワイヤが使用されます。チップの信号を外部に伝える極めて重要な役割を担います。 - プローブピン
ウエハ製造後の電気特性試験機に用いる検査端子(プローブピン)。接触抵抗を低く抑え、耐久性を向上させるために、先端にロジウムや金などの貴金属表面処理(めっき)が施されています。
材料コストを最小化する方法
貴金属材料を使用する際に、経営上最も注意すべき点は、その高い価格と価格変動に対するリスクです。貴金属価格は、地政学的な要因や投機的な資金流入など、供給する側も使用する側も管理不能な領域にあるため、コストコントロールが極めて難しい材料といえます。
この管理不能なリスクを回避し、購入費用を抑えるための基本は、貴金属材料を「必要な時に必要な量」だけ購入するというスタンスを徹底することです。過剰な在庫は、価格変動リスクを直接的に負うことになり、資金効率を低下させます。
理想は、そもそも他の安価な金属材料に置き換える「脱貴金属化」ですが、先に述べたとおり、貴金属は代替の難しい優れた性質を持つため、容易に置き換えることは出来ません。また、材料変更には信頼性評価や顧客からの承認、製造工程の再設計など、大きな労力と長い時間を要する手続きが伴います。
では、長期的な視点と短期的な視点から、他にどのようなコスト最小化の方法があるのでしょうか。その秘策について、以下に述べてまいります。
(1)省貴金属化・脱貴金属化という方法
この方法は、貴金属の優れた機能や特性を維持しつつ、使用する量を減らす「省貴金属化」、あるいはより安価な金属材料へ変更する「脱貴金属化」という根本的な取り組みです。導入に時間はかかるものの、長期的なコスト削減効果は非常に大きくなります。
a. 薄膜形成工程における省貴金属化・脱貴金属化
真空薄膜形成時に使用する「金スパッタリングターゲット」という板状の加工材を例に挙げます。形成される薄膜の機能・特性に変化が生じない範囲で、他の安価な金属を混ぜて合金化することで、貴金属の使用量を削減する方法があります。
- 合金化によるコスト削減:具体的には、金に近い化学的・物理的性質を持つ「銀」と合金化したスパッタリングターゲットが広く使用されています。Au(金)合金ターゲットは、純金ターゲットと同等の機能を発揮しつつ、金の使用量を削減できます。
- 代替金属への置き換え:さらに極端な例として、「金」を「銀」に完全に置き換え、形成する膜を意図的に厚くすることで対応できる場合があります。銀の導電性は高いため、金の持つ耐食性や安定性の一部を膜厚で補うというアプローチです。
b. めっき工程における省貴金属化
めっき法による薄膜形成の場合、建浴液中の貴金属量を減らした「低濃度建浴液」に変更することで、購入費用を抑えることができます。また、液中の貴金属濃度が下がることで、部品の洗浄時に液体と一緒に持ち出される貴金属の量も減り、結果として水洗槽への持ち出し量を削減することが可能となります。
c. ボンディングワイヤの脱金化
後工程の主要材料の一つである「ボンディングワイヤ」は、トランジスタが発明された頃から長い間「金」が主流でした。しかし、金の価格高騰とコスト削減の必要性から、業界全体で脱金化が加速しています。
この脱金化を象徴するのが、日鉄マイクロメタル株式会社(松田産業の関連会社)が開発した革新的な「PCCボンディングワイヤ(パラジウム被覆銅ボンディングワイヤ)」です。安価な銅線の表面を、化学的安定性に優れたパラジウムで薄く被覆することで、銅線の弱点である酸化耐性を克服しました。PCCボンディングワイヤは現在、高価な金ボンディングワイヤの使用量を大きく上回って普及しており、ますます「脱金化」が進んでいます。
(2)リサイクル(再利用する取組)
省貴金属化や脱貴金属化が長期的な取り組みであるのに対し、短期間で、かつ持続的にコストを削減する方法として「リサイクル」があります。これは、貴金属が持つ「繰り返し使える金属」という本質的な特徴を最大限に活用し、使用済み材料を新たな購入材料にリサイクルするという取り組みです。
a. 貴金属めっき工程におけるリサイクル
めっき工程では、貴金属めっき建浴液は交換時に必ずリサイクルに回されます。しかし、見落とされがちなのが、水洗槽(貯め槽・流水槽など)からの貴金属の回収です。水洗槽には、めっき部品により持ち出された貴金属が低濃度で存在しており、これを回収するために吸着樹脂などが使用されます。その交換を怠ると、貴重な貴金属がそのまま排出されてしまうリスクがあります。
コスト低減のためには、貴金属リサイクルの専門会社へ問い合わせを行い、効率的で透明性がある回収方法や回収装置の導入を相談することが有効です。専門会社による現状確認は、貴社のめっき工程における「見えない損失」を可視化する第一歩となります。
リサイクルを委託する専門会社の選定基準として非常に重要なのは、「回収した貴金属を、めっき液の建浴時や補充時に購入する貴金属化合物(シアン化金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、ジクロロテトラアンミンパラジウムなど)の原料として再利用し、自社で製造できる会社」を選ぶことです。これにより、回収した貴金属が新たな製品となって戻ってくる「循環型」の取引が可能となり、コスト削減効果が最大化されます。
b. スパッタリング・真空蒸着工程におけるリサイクル
貴金属薄膜形成に使用されるスパッタリング装置と真空蒸着装置は、高価な貴金属を使用する割に、材料の使用効率が低いという特徴があります。
- スパッタリングターゲットの改鋳
板状のスパッタリングターゲットは、スパッタされてエロージョン(溝)が形成されるため、貫通する前に交換が必要となり、一般的に使用効率は30%前後と低い水準に留まります。この使用済みターゲットから残存する貴金属を回収し、「改鋳」して新たなターゲットとして再加工することで繰り返し使用します。改鋳時に不足する貴金属を追加購入することになりますが、回収した分だけ購入量を減らすことが可能です。 - 真空蒸着材の回収
真空蒸着装置による成膜では、蒸着源である貴金属材料(ペレットやワイヤ状)を補充しながら使用します。補充を繰り返すうちに不純物やるつぼ内の汚染物質が蓄積されるため、一定回数後に塊状になった蒸着材を取り出し、回収精製に回します。 - 「防着板」からの貴金属回収
スパッタリング装置も真空蒸着装置も、目的の基板(半導体ウエハなど)以外に、装置内部の「防着板(シールド)」にも貴金属が堆積します。堆積量は装置によって大きく異なり、スパッタリング装置では15%前後、真空蒸着装置では材料の大半にあたる85%前後が防着板に堆積するというデータがあります。特に真空蒸着装置においては、供給材料のほとんどが防着板に付着するため、この回収がコスト抑制の鍵となります。
防着板からの貴金属回収は、クリーニング(精密洗浄)時に装置から取り外し、専門会社に委託するのが一般的です。これは貴金属の回収が伴うパーツクリーニングであるため、除膜した貴金属の「回収精製を自社で行える会社」を選定する必要があります。真空装置のパーツクリーニングを行う会社は多く存在しますが、同時に貴金属回収精製(溶解・分析・精錬)までを一貫して行っている会社は多くありません。
防着板等から回収された貴金属は、回収精製専門の会社へ出され、地金として売却される「リニアな取引」となりがちです。しかし、材料コストを抑えるためには、回収した貴金属を「スパッタリングターゲット」や「蒸着材」の原料として使用できる専門会社に委託することが、最も費用対効果の高い取り組みとなります。
スパッタリング装置や真空蒸着装置で使用する貴金属材料は、その使用効率が低いことを逆手に取ることが重要です。
- スパッタリング装置の場合:使用済みターゲットの「改鋳」に加え、内部パーツ(防着板など)から回収する貴金属を同時に「改鋳」することで、購入する新たな貴金属の量を最小限に抑え、材料コストを低減できます。
- 真空蒸着装置の場合:材料の大半が内部パーツに堆積するため、パーツクリーニング時に回収した貴金属を原料とし、新たな蒸着材に加工し直す「貴金属の循環利用」が最も効果的なコスト抑制策となります。
まとめ
貴金属材料のコストを抑制する近道は、省貴金属化や脱貴金属化といった長期的な戦略を進めつつも、貴金属が持つ「繰り返し使用できる」という特徴を最大限に活かし、材料の使用効率を鑑みた「徹底したリサイクル」を行うことです。特に、薄膜形成工程における防着板などからの回収は、見落とされがちな大きなコスト削減の機会となります。
松田産業は、貴金属の回収精製から、めっき液やスパッタリングターゲット、蒸着材などの貴金属製品の製造までを一貫して自社で行える専門会社です。お客様の煩雑な貴金属地金管理を代行し、貴金属材料の調達コストを最小化する取り組みを全力でサポートいたします。
回収した貴金属を原料としてプールし、貴金属製品を購入する際にはそこから使用分を差し引き、不足分だけを新たに購入していただく「循環型取引(ループビジネス)」のスキーム構築は、ぜひ当社にお任せください。このループビジネスにより、お客様は貴金属の調達における価格変動リスクを軽減し、運転資金の効率化を図ることが可能となります。
関連資料:半導体に使用する貴金属のコストを最小化する方法 〜製造工程に眠る「隠れ資産」発掘マップ〜
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