貴金属めっきとその廃液からの貴金属回収

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松田産業株式会社

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半導体や電子部品には、高い導電性・環境特性を持つ貴金属が「めっき」という手法によって広く使用されています。
特に、金めっきは、酸化や腐食に対する耐性が非常に高く、また高い電気伝導性や耐摩耗性も兼ね備えています。そのため、金めっきは電子機器部品や精密機械、医療機器など、さまざまな分野で利用されています。
しかし、有限かつ高価な貴金属めっき材料としての「金」には「省金」及び「リサイクル」を前提とした使用が求められています。


金めっきと省金化

 金めっきに使用される「金」は有限な資源であることと高価な材料であるために、その用量を可能な限り抑える“省金化”が課題になっています。

「金」は通貨としての側面が強く、世界経済の動向、紛争など地政学的なリスクも抱えた金属であります。その動向の影響を受けて、価格の変動に敏感であり、急騰への懸念を常に持ちつつ産業用途として使用され続けています。
その備えとして”省金”、”脱金”に対する取組を、金材料を供給する側、それを使用する側、共に継続して進めていかなければなりません。
「金」価格は先に述べた環境下で形成される国際価格ですので、両者ともに管理不能なものであります。両者ともに進めることが出来る方法は、唯一、効率よく、ムダなく「金」を使用することです。

幸いなことに「金」は化学的安定性(環境安定性)に極めて優れた金属ですので、リサイクルし再使用が可能です。しかも経済的にリサイクルが可能です。
このような性格を持つ「金」をめっき用途として使用するための”省金化”の方法は、下記に示す3つです。

1.金濃度が低いめっき本液を選定する。

2.部品にめっきされずに漕に滞留する「金」、水洗液へと持ち出す「金」を可能な限り回収する。

3.回収した「金」を原料として「金化合物」を製造し再利用する。

工程から発生する「金」を含む廃液

 金めっき本液に含有されている「金」は、工程を経るごとに「金」含有水洗廃液や「金」含有廃材として発生します。(めっき本液も定期的に交換され、リサイクル業者に送られて「金」の回収が行われています。

めっき処理された廃材(製品不良や試験用)は、そのままリサイクル業者に送り、回収・精製されることが一般的ですが、水洗廃液は廃材よりも「金」含有率が低く、リサイクル業者への直送は安全面を考慮しなければなりませんし、そもそも経済的なリサイクル方法ではありません。
めっき工場には専用の排水処理設備が完備されており、水洗廃液を処理している工場もありますが、この方法ですと、水洗廃液に含まれている「金」は沈降処理後に固液分離され、スラッジは産業廃棄物として処理費用を支払い処理されるか、または鉱山原料として売却されています。

「金」は有限な資源ですので、安全かつ経済的に回収する仕組みを構築することが、間接的ではありますが環境が保全され、効率的な回収手法を選択することにより製造原価の低減が実現されます。
これらを実現するためには、「金」含有水洗廃液については可能な限りめっき工程で一次回収し、「金」含有率を高めた状態でリサイクル業者に搬出することを推奨します。

金めっき工程からの「金」の一次回収

 めっき工程で発生した「金」含有廃液を回収する方法として「オンサイト一次回収システム」があります。
オンサイト一次回収システムとは、めっき工程における「金」含有廃液を、工程に適した回収装置を用いてめっき工程の付属設備として設置し、廃水中に含まれる「金」を抽出・回収する処理方法です。
めっき工程の装置に連動した自動運転も可能です。

✔オンサイトで「金」を抽出回収して廃液を分離することが可能です。
→「金」含有廃液の保管が不要です。
「金」含有廃液の産業廃棄物化を防ぎ、高い回収率を実現することが可能です。

✔「金」含有率を上げた状態で回収精製へ送ることが可能です。
→液輸送の安全対策費用や精製費用の低減が実現可能です。

 「金」を効率よく回収でき、「金」化合物の原料として効率的に再利用することが可能です。
→製造原価の低減が実現可能です。

オンサイト一次回収システム

 「金」をめっき工程のオンサイトで一次回収するシステムとしては、電解式回収装置と樹脂通液式回収装置の組み合わせが代表的な方法です。
比較的高濃度の「金」含有廃液からの回収には「電解式回収装置」が適しています(めっき本液の交換後に発生する本液廃液の回収には、この方法を用いてめっき工場内で回収が可能です)。一方、二次水洗や流水水洗廃液には「樹脂通液式回収装置」が適しています。

次に、電解式回収装置と樹脂通液式回収装置それぞれの回収の仕組みと特徴を説明します。

電解式回収装置による「金」回収

電解式回収装置による「金」回収では、「金」を電気分解で還元し、電極に析出させて回収します。
電解効率が高い「金」イオンが高濃度な排水から回収する場合に適した回収方式です。
※回収する液の種類、貴金属イオン濃度により最適な電解条件を設定し回収します。

樹脂通液式回収装置(イオン交換樹脂を用いた回収装置)

樹脂通液式回収装置では、イオン交換樹脂を充填したカラムに「金」含有廃水を通液し捕集回収します。
通液する排水の貴金属濃度が低い場合は、イオン交換樹脂による回収が適しています。また、電解式回収装置による回収済みの液からは、樹脂通液式回収装置と併用し極限まで回収を進めます。

高濃度の「金」含有廃水を樹脂通液式回収装置で直接回収する場合には、樹脂が飽和するまでの時間が短くなり、樹脂の交換頻度が増すため、樹脂使用量の増加した設備の大型化が必要になります。大型装置では交換作業による作業負荷が懸念されます。
したがって、比較的高濃度の「金」含有廃液に対しては、電解式回収装置の設計を重視し、樹脂通液式回収装置は電解回収後の極微量の「金」を漏れなく回収するため、廃液処理へ移送する直前の回収を目的として設置する設備設計となります。

特殊処理にて再使用が出来るイオン交換樹脂はありますが、精製段階での回収率に懸念があります。樹脂通液式回収装置のイオン交換樹脂は、「金」回収精製の前処理工程による環境側面の懸念もあるため、使用量は最小限に抑えなければなりません。

電解回収装置とイオン交換樹脂による回収の流れ

①最初に比較的濃度が高い使用済み貴金属めっき液や回収水などから電解回収装置で回収します。
                   ↓
②次に、電解回収後の廃水と低濃度の水洗水を樹脂通液式回収装置を用い通液回収します。
                   ↓
③処理後の廃水は、毒劇物の有無を確認し適正な排水処理を行います。

触媒付与液からパラジウムを回収する方法

めっきの準備工程では、めっき処理を行う基材にパラジウム触媒を付与します。
この処理から発生する「パラジウム」を含む処理液からも「パラジウム」を回収することが可能です。

特殊な吸着材を使い、パラジウム触媒付与液からパラジウムのみを樹脂に吸着し、廃液は廃酸として処理する方法もありますが、無電解銅めっきや無電解ニッケルめっきの前処理で使用されるパラジウム触媒付与液は、電解回収装置やイオン交換樹脂でもパラジウム触媒付与液からのパラジウム回収に一定の実績があるものの、スズを含有するコロイド系のパラジウム触媒付与液については回収が困難でした。
この場合は、特殊粘着材の使用により、パラジウムが吸着せずに通過することなく回収することが出来ます。

一次回収システムの詳細はこちらから

めっき工程で一次回収した「金」を化合物として再使用する

オンサイトで一次回収された「金」は、回収精製工場に送り、高純度金として精製されます。
精製後の貴金属は、原料として、例えば、シアン化金カリウムや亜硫酸金ナトリウムの原料となります。

このように、回収した「金」を、めっき液の建浴や、めっき処理で消費された「金」の補充用「金」化合物として返却を受ける「貴金属ループ取引」の仕組みを構築することが、製造原価の低減につながる近道です。

また、「金」は有限な資源です。半導体・電子デバイスの製造工程における環境意識の高まりを受け、リサイクル「金」の使用に対しては、益々その要求が高まることが見込まれています。

貴金属化合物はこちらを参照して下さい。

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